2026年7月末、東北地方でバナメイエビを手がける陸上養殖事業者が事業停止し、全従業員が解雇されたというニュースが報道されました。
実は、この事業者様とは少しご縁があり、私どもの「ラクスイ」を事業当初にトライアルでご利用頂いた事もございました。
この事業者の責任者の方は関東出身で、野球強豪校のご出身の通り、実直でありながらもチームや仲間を重視した素晴らしい方です。
今回の報道は陸上養殖に関わる者の一人として、本当につらい思いと今まで様々な努力を続けて来られた事業責任者やご関係者の無念さを感じております。
一方で、私達は陸上養殖が「キラキラした成長分野」ではないという事実も改めて感じております。
そこで、今回の事例をもとに、報道されている内容と私が考える停止に至った原因についてまとめ、新規で陸上養殖やアクアポニクス事業に取り組まれる方への心構えとして、記事をまとめたいと考えました。
■報道された内容
2026年7月、国内最大級のバナメイエビ陸上養殖施設が事業を停止したことが報じられました。
報道によると、この施設は2022年に設立され、地域活性化を目的としてエビの陸上養殖を行うとともに、観光や地域ブランドづくりにも取り組んでいました。2025年度には約1万匹のバナメイエビを出荷するなど、本格的な事業展開が進められていました。
一方で、冬季の電気代や燃料代が想定以上に増加し、約4,000万円の赤字となったことが経営を圧迫したと報じられています。
また、資金を支援していた企業が追加支援を見送る判断を行ったことから、養殖施設は稼働を停止し、従業員は退職、養殖していたエビや魚もすべて出荷・処分されることとなりました。
地域産業の新たな柱として期待されていた事業であっただけに、その影響は地域経済にも及ぶ可能性があると報じられています。
■報道された原因
冬季の電気代や燃料代が想定以上に増加し、約4,000万円の赤字となった
事業を停止する際の報道は、本当に短く、素気の無い、無味乾燥なものですが、ここから今回の原因について考えて参りたいと思います。
■赤字の内容はどうだったのか?
まず、私の中で一番の疑念に上ったのが約4,000万円の赤字に対する「内訳」と「それぞれの大きさ」です。
報道では「冬季の電気代や燃料代」と短く結論づけられていますが、私自身はもっと大きな原因があったと考えております。
私は赤字の内訳として次の様に試算いたしました。
★A経費
(1)人件費 (3,000万円 6人で年間約2,700万~3,600万円程度)
(2)エネルギー費 (2,000万円)
(3)減価償却費(※)(2,000万円 設備 3億円 耐用年数15年)
(4)消耗品費 (600万円 餌、酸素、人工海水)
★B売上
300万円~500万円 (輸入冷凍 1尾 50~100円程度、国産ブランド 1尾300~700円x1万尾)
★C損益
▲7,000万円の赤字 (報道された数値と大きく異なる・・)
(※)減価償却費とは、建物や設備など高額な資産の購入費用を、その資産を使用する期間にわたって少しずつ費用として計上する会計上の仕組みです。
■内訳も数字も報道と合わないの、なぜか?
では、報道された数値と大きく異なるのはなぜでしょうか?
それは、一言で表現できませんが、関係各位への配慮があったと考えております。
本事業は地方創生、復興支援を含めた事業であり、利害関係者も多々に及びます。
ただ、私が考える数値の差異について、結論づけるなら「それ自体に悪意はない」という事です。
むしろ、「良くしようと努力したが、それを入れても事業を続けられなかった・・」のではないかと感じております。
その為、数値の差異について、これ以上、深堀しないことと致します・・。
■本質的に何が良くなかったのか?
(1)まず、一番に考えるべきことは「魚種選択」だと考えております。
東北地方という、比較的「寒い」地域において「熱帯性の魚種」を飼育する事は、エネルギー効率が悪すぎます。
工場排熱、温泉排熱など、既にあるエネルギーを利用するのであれば良いのですが、そういったものがない状態で、「バナメイエビ」を選択してしまった事が、一番の問題であったと考えております。
また、「甲殻類の飼育」は「厳しい水質管理」が必要で、トータルで考えても難しく運営が必要です。
更に言えば、市場のニーズと供給のバランスとして、「国産バナメイエビ」は供給過多になりつつあり、高価格帯で販売する事が難しいのが現実です。
(2)次に、多すぎる従業員です。事業停止時に6人の退職となっておりましたが、6人を常時雇用する為の財務状態ではありません。様々な資金調達や条件があったとしても、この人件費を考慮しなければ、事業体として維持はできません。
私が考える本事業の人数は2人、多くても3人が限界だと考えております。更に言えばパートタイマーやアルバイトでなければなりません。
(3)そして、高すぎる初期投資額も、事業を大きく圧迫しております。
経営者なら減価償却をご存じない方はいないと思いますが、初期投資が大きい陸上養殖では、減価償却費が毎期の収支に大きな影響を与えます。特に閉鎖型陸上養殖(RAS)は設備数が多い為、特にこの初期投資をいかに少なくするかが、重要なテーマとなってきます。
■では、どうしたら陸上養殖を成功させることができるのか?
(1)地の利に合った魚種を選択
魚種と場所では、次の項目が特に重要だと思っています。
(A)温度帯(冷水魚、熱帯魚)(B)淡水、海水(C)飼育難度
これらに合った場所は、魚種によって異なります。その為、魚種にあった用地取得を検討する事が肝要です。
地熱や排熱、廃冷エネルギー、深層海洋水が利用できるなら、とても有利な運用が可能です。
また、海水魚なら海岸地域がコスト削減にとても重要です。
更に、病気に強い、育てやすい、生体もあります。
(2)小さく始め(設備は小さく、人も最小限で)、改革改善を継続実行
商品は「生き物」です。正直にいいますが、「病気」「斃死」「全滅」が頻繁に起こるのが養殖事業です。
ノウハウがあれば良いですが、人は未熟で、場所も異なり、何が起こるか予測が困難です。
コンサルがいるから大丈夫、実績があるから大丈夫、と考えず、人任せにせず、小さく確実に自社のノウハウを貯めながら
同時に人や組織を育てていく必要があります。
設備や人を増やす際は、財務状況、生産と販売を熟慮し慎重に行います。
運用開始後も省人化、省力化など常に改革改善活動を行い、事業改良をめざします。
(3)商品開発、販売方法、販売先の開拓
軽視されがちですが、商品開発、販売方法、販売先も重要な要素です。
「売り先」と簡単にひとくくりせず、「どんな商品を」「どうやって」「誰に売るのか」しっかりと分解していきましょう。
例を挙げるのなら、原体のまま売るのか?切り身などに加工して売るのか?あるいは総菜レベルまで調理してうるのか?
自社で営業するのか?食品卸に卸すのか?メーカーへ販売するのか?ネットで販売するのか?
近隣の外食店か?スーパーなどの量販店か?給食事業者か?市場か?
それぞれの業界があり、そこには商ルール(商慣行)が存在しています。
■さいごに
早いもので、私も陸上養殖に関わり8年目を迎えました。
もともと食品業にも13年以上従事しており、販売先の業界についても多少知見もありますが、陸上養殖という生産という現場を研究し、関係各位と展示会などでご縁を頂きました。事業の運営の中で、人が重要な要素であることに変わりはないのですが、陸上養殖という、魚種、地域、病気、設備、飼料、ノウハウ、人財、資金、販売方法、販売先など、様々な要素が高度に必要な分野でもあります。
つまり、難しい分野です。
一方で、この点をしっかりと肝に据えて、取り組めば成功確率は飛躍的に上がるとも考えております。
私どもKUTは、あなたの陸上養殖事業をこのような視点でサポートしたいと考えております。



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